雑誌「演劇界」に『燃えよ剣』劇評掲載

雑誌「演劇界」(演劇出版社)7月号に明治座5月公演『燃えよ剣』の劇評が掲載されています。

幕末を疾風怒濤と駆け抜けた新撰組の物語は被かずあるが、画期的と評価の高い司馬遼太郎原作『燃えよ剣』の舞台化である。映画、テレビ、舞台と何度も採り上げられている馴染み作品だが、今回の舞台は、ラッパ屋主催の鈴木聡脚本、ラサール石井演出によって、親近感溢れる青春ドラマになっている。司馬が原作で脚光を浴びせた新撰組副長、土方歳三上川隆也)と局長である近藤勇風間杜夫)が、共に武州多摩の百姓の倅に生まれながら剣を学び、動乱の時代に乗じて武士となり、やがて仲間を募って新撰組を結成、しかし時代に敗れていく姿が描かれる。そのさまは、大声ゼリフを特色に所作万端、小劇場風なコミカルな味付けで愛嬌と躍動感に溢れ、現代の若者たちの日常に呼応する。時代を見抜く思想より疾走する情熱に身を委ねてしまった青春悲劇なのだ。朴訥に夢を追った近藤の甘さとその夢を一途に信じて散った土方の辛さは、友情を越えた二人の生そのもので、風間と上川が飾らぬ日常語で渡り合い、笑いを誘いながら見事な芝居場に昇華した。多々登場する刃傷シーンに殺伐感がないのも特徴である。ラスト、満開の桜の下で近藤、土方他、出演者全員があの世の花見の宴を開くところが悲しくも美しい。畢竟、男のドラマで、分が悪い女性陣の中では、土方と一瞬の恋模様を見せる、富田靖子のお雪が、ふわっと風花のように輝く存在を見せる。脇を固めた小劇場系出演者たちが、賑々しく奮闘する。(石井哲夫)